ニッコロ・マキアヴェッリ『君主論』,中公文庫BIBLIO,2002
池田廉訳の君主論を読み終えた.本書は250ページ近くあるが,150ページが本文,残り100ページは訳注と解説である.
- 作者: ニッコロマキアヴェリ,Machiavelli,池田廉
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/04/25
- メディア: 文庫
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本書を読む前のマキアヴェリの印象は権謀術数主義者だったのだが,全くそんなことはなかった.民衆は頭を撫でるか消すかのどちらかにしろ等,それに近しい主張もところどころ見受けられるが,人間を客観的に評価した結果,そのようなことをする必要もあると述べているだけだ.実際,君主が悪徳を働いてよいのは自身の生死がかかっている場合と戦時中のみであり,常日頃は徳のある人間でいなければならないと書かれている.まともなことが書かれており,訳も読みやすく,オススメできる一冊である.
本書の焦点は君主の成功,つまり,侵略や謀反を退けて地位と国家を守って生き抜くための論考だ.まず侵略への対策に関しては,傭兵軍や外国支援軍に頼らず,自国軍のみを利用すべきだと主張している.この理由は,傭兵軍は非戦時は金を貰うくせに,いざ戦時となれば逃げだすからだ.また,外国支援軍については,戦争に負けた場合は言わずもがな,仮に勝利したとしても軍を送った君主の言いなりになってしまうため,他者の言いなりになるべきでないという君主の性質を失ってしまう.従って,常に有事を想定し,自国軍を鍛えなければならないという.この主張には同意見だ.そもそも不確定要素を確定要素として扱うのはリスクが大きすぎる.ゆえに,自分の意思で扱える力,つまり自分の力量を高めることに全力で取り組まなければならない.
謀反は,そもそも君主に不満や憎しみがあるから起こるものであるため,そうならないように気をつけるべきだという.自分の地位を脅かす野心的な人物は徹底的に叩き潰し,その領民には必要以上に悪徳を働いてはいけない.また,民衆に対して重税をかけるのも憎しみを買ってしまうため,ケチであるべきだという.ただ一方で,慈悲深い,信義に厚い,裏表がない,人情味に溢れる,宗教心が厚いなどの善徳のみでは有害であるため,時には狐のように狡猾に,時にはライオンのように力で圧倒する必要があるという.
その他にも,適切な報酬や待遇を与えろ,立場は明確に表明しろ,人の話を聴け等まともなことが主張されている.もちろん,解説にもあるように裏切りや陰謀,セクト主義等,現代に当てはまらない部分は多々あるが,それでも,競争社会を生き抜く上で参考になる部分は多いように思う.最後に,特に印象に残っている記述を引用して,結びとする.
運命の女神を,一つの破壊的な河川にたとえてみよう.川は起りだすと,岸辺に反乱し,樹木や建物をなぎ倒し,こちらの土を掘り返して,向こう岸におく.だれもが奔流を見て逃げまどい,みなが抵抗の術もなく,猛威に屈してしまう.河川とはこうした性質のものだが,それでも,平穏な時には,あらかじめ堰や堤防を築いて,備えておくことはできる.やがて増水しても,こんどは運河を通して流すようにする.いいかえれば,激流のわがままかってをなだめて,被害を少なくすることができないわけではない.
同じことは運命についていえる.運命は,まだ抵抗力がついていないところで,猛威をふるうもので,堤防や堰ができていない,阻止されないとみるところに,その鉾先を向けてくる.(中略)
さて,結論を下すとすれば,運命は変化する者である.人が自己流のやり方に拘れば,運命と人の行き方が合致する場合には成功するが,しない場合は,不幸な目を見る.
わたしが考える見解はこうである.人は,慎重であるよりは,むしろ果断に進む方が良い.なぜなら運命は女神だから,彼女を征服しようとすれば,打ちのめし,突き飛ばす必要がある.運命は,冷静な行き方をする人より,こんな人の言いなりになってくれる.
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