備忘録

勉強や読書の記録

ニッコロ・マキアヴェッリ『君主論』,中公文庫BIBLIO,2002

 池田廉訳の君主論を読み終えた.本書は250ページ近くあるが,150ページが本文,残り100ページは訳注と解説である.

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)

新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)

 

 本書を読む前のマキアヴェリの印象は権謀術数主義者だったのだが,全くそんなことはなかった.民衆は頭を撫でるか消すかのどちらかにしろ等,それに近しい主張もところどころ見受けられるが,人間を客観的に評価した結果,そのようなことをする必要もあると述べているだけだ.実際,君主が悪徳を働いてよいのは自身の生死がかかっている場合と戦時中のみであり,常日頃は徳のある人間でいなければならないと書かれている.まともなことが書かれており,訳も読みやすく,オススメできる一冊である. 

 本書の焦点は君主の成功,つまり,侵略や謀反を退けて地位と国家を守って生き抜くための論考だ.まず侵略への対策に関しては,傭兵軍や外国支援軍に頼らず,自国軍のみを利用すべきだと主張している.この理由は,傭兵軍は非戦時は金を貰うくせに,いざ戦時となれば逃げだすからだ.また,外国支援軍については,戦争に負けた場合は言わずもがな,仮に勝利したとしても軍を送った君主の言いなりになってしまうため,他者の言いなりになるべきでないという君主の性質を失ってしまう.従って,常に有事を想定し,自国軍を鍛えなければならないという.この主張には同意見だ.そもそも不確定要素を確定要素として扱うのはリスクが大きすぎる.ゆえに,自分の意思で扱える力,つまり自分の力量を高めることに全力で取り組まなければならない.

 謀反は,そもそも君主に不満や憎しみがあるから起こるものであるため,そうならないように気をつけるべきだという.自分の地位を脅かす野心的な人物は徹底的に叩き潰し,その領民には必要以上に悪徳を働いてはいけない.また,民衆に対して重税をかけるのも憎しみを買ってしまうため,ケチであるべきだという.ただ一方で,慈悲深い,信義に厚い,裏表がない,人情味に溢れる,宗教心が厚いなどの善徳のみでは有害であるため,時には狐のように狡猾に,時にはライオンのように力で圧倒する必要があるという.

 その他にも,適切な報酬や待遇を与えろ,立場は明確に表明しろ,人の話を聴け等まともなことが主張されている.もちろん,解説にもあるように裏切りや陰謀,セクト主義等,現代に当てはまらない部分は多々あるが,それでも,競争社会を生き抜く上で参考になる部分は多いように思う.最後に,特に印象に残っている記述を引用して,結びとする.

 運命の女神を,一つの破壊的な河川にたとえてみよう.川は起りだすと,岸辺に反乱し,樹木や建物をなぎ倒し,こちらの土を掘り返して,向こう岸におく.だれもが奔流を見て逃げまどい,みなが抵抗の術もなく,猛威に屈してしまう.河川とはこうした性質のものだが,それでも,平穏な時には,あらかじめ堰や堤防を築いて,備えておくことはできる.やがて増水しても,こんどは運河を通して流すようにする.いいかえれば,激流のわがままかってをなだめて,被害を少なくすることができないわけではない.

 同じことは運命についていえる.運命は,まだ抵抗力がついていないところで,猛威をふるうもので,堤防や堰ができていない,阻止されないとみるところに,その鉾先を向けてくる.(中略)

 さて,結論を下すとすれば,運命は変化する者である.人が自己流のやり方に拘れば,運命と人の行き方が合致する場合には成功するが,しない場合は,不幸な目を見る.

 わたしが考える見解はこうである.人は,慎重であるよりは,むしろ果断に進む方が良い.なぜなら運命は女神だから,彼女を征服しようとすれば,打ちのめし,突き飛ばす必要がある.運命は,冷静な行き方をする人より,こんな人の言いなりになってくれる.

 

  1. 君主国にはどんな種類があり,その国々はどのように征服されたのか
  2. 世襲の君主国
  3. 混成型の君主国
  4. アレクサンドロス大王が征服したダレイオス王国は,大王の死後も,後継者への謀反が起きなかった.その理由はどこにあるのか
  5. 都市,あるいは国を治めるにあたって,征服以前に,民衆が自治のもとで暮らしてきた場合,どうすればよいか
  6. 自分の武力や力量によって,手に入れた新君主国について
  7. 他人の武力や運によって,手に入れた新君主国について
  8. 悪辣な行為によって,君主の地位を掴んだ人々
  9. 市民型の君主国
  10. さまざまな君主国の戦力を,どのように推し量るか
  11. 教会君主国
  12. 武力の種類,なかでも傭兵軍
  13. 外国支援軍,混成軍,自国軍
  14. 軍備についての,君主の責務
  15. 人間,ことに世の君主の,毀誉褒貶はなにによるものか
  16. 鷹揚さと吝嗇
  17. 冷酷さと憐れみ深さ,恐れられるのと愛されるのと,さてどちらがよいのか
  18. 君主たるもの,どう信義を守るべきか
  19. 君主は軽蔑され憎まれるのを,どう避けるか
  20. 君主たちが日夜築く城塞や,その類のものは,有益か有害か
  21. 君主が衆望を集めるには,どのように振る舞うべきか
  22. 君主が側近に選ぶ秘書官
  23. へつらう者をどのように避けるか
  24. イタリアの君主たちが,領土を失ったのはなぜか
  25. 運命は人間の行動にどれほどの力をもつか,運命に対してどう抵抗したらよいか
  26. イタリアを手中に収め,外敵からの解放を激励して