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備忘録

勉強や読書の記録

サミュエル・スマイルズ『自助論』,三笠書房,2002

 本書は,明治時代にかの『学問のすゝめ』とともに明治の青年の向上心を燃え上がらせた名著である.

スマイルズの世界的名著 自助論 知的生きかた文庫

スマイルズの世界的名著 自助論 知的生きかた文庫

 

 まず,第一章『自助の精神―人生は自分の手でしか開けない!』で印象深い文を引用する.

外部からの援助は人間を弱くする.自分で自分を助けようとする精神こそ,その人間をいつまでも励まし元気づける.人のために良かれと思って援助の手を差し伸べても,相手はかえって自立の気持ちを失い,その必要性をも忘れるだろう.保護や抑制も度が過ぎると,役に立たない無力な人間を生み出すのがオチである.  

たとえば,歴史上の大きな戦役で名を残すのは将軍だけだ.しかし実際には,無数の一兵卒の勇気溢れた英雄的な行動なしに勝利は勝ち取れなかったはずだ.人生もまた戦いに他ならない. そこでも無名の兵士が実に偉大な働きをしてきた.伝記に名を残した幸運な偉人と同じように,歴史から忘れ去られた多くの人物が文明と社会の進歩に多大な影響を与えている.

人間は読書ではなく労働によって自己を完成させる.つまり,人間を向上させるのは文学ではなく生活であり,学問ではなく行動であり,そして伝記ではなくその人の人間性なのである. 

フランシス・ベーコンは次のように語っている.「人は,自らの富も自らの能力も正しく理解していない.富については必要以上に素晴らしいものだと信じる反面,人間の能力はさほど偉大なものだと思っていない.自らの富を否定し,自らの力のみを信頼できる人間だけが,自分の水桶から水を飲み,自分のパンを食べる方法を学ぶ.つまり,生計を立てる道を習い,自分が善だと思うことを他人にも実践していけるようになるのだ.」 

 次に,第二章『忍耐―雨霜に打たれてこそ若芽は強く伸びる!』から引用.

どんなに高尚な分野の学問を追及する際にも,常識や集中力,勤勉,忍耐のような平凡な資質が一番役に立つ.そこには天賦の才など必要とされないかもしれない.たとえ天才であろうと,このような当たり前の資質を決して軽んじたりはしない.

作物を刈り取るには,まず種を蒔かなくてはならない.その後は,収穫の時期がくるのを忍耐強く待ち続ける必要がある.そして多くの場合,いちばん待ち望まれる果実ほど実を結ぶのは一番遅い.だから,一刻も早く成果を得ようなどと焦ってはダメだ.東洋のことわざにあるように「時間と忍耐は桑の葉をシュス(サテン)に変える」ものなのだ.

ビュフォンは,芯から仕事の無視であり,どんなことでも段取りを整えてテキパキとこなさなければ気が済まなかった.「秩序立てて仕事をすることを知らない人間は,いかに天賦の才に恵まれて異様と,その才能の四分の三は浪費しているも同然だ」と,彼はつねづね話している.

 次に第三章『好機,再び来らず―人生の転機を見抜く才覚,生かす才覚』から.

観察力の優劣は,人間に大きな差をつける.ロシアのことわざにあるように,注意力の散漫な人間は「森を歩いても薪を見つけられない」のである.古代イスラエルの賢王ソロモンは「賢者の目は頭の中にあり,愚者は暗闇を歩く」と語っている. 

チャンスを捉え,偶然を何かの目的に利用していくところに成功の大きな秘密が隠されている.ジョンソンは,天才的な力のことを「広い分野を包み込む大きな精神が,偶然ある特定の方向へ向けられたものである」と定義した.独力で活路を切り拓こうとする人間には,それにふさわしい好機が必ず与えられる.手近にチャンスがなくとも,彼らはそれを自力で生み出していくのだ. 

何度も繰り返すように,我々を助けるのは偶然の力ではなく,確固とした目標に向かって粘り強く勤勉に歩んでいこうとする姿勢なのだ.意志薄弱で怠惰な人間,目的もなくぶらぶらしている人間には,どんな幸運も意味を持たない.彼らは,目の前をまたとない チャンスが通り過ぎても,その意味も分からずぼんやり見逃すだけだ.

名医ジョン・ハンターも,記憶力の弱さをメモで補っていたし,折に触れてメモの効用を説いていた.彼はこう語っている.「考えたことや見聞きしたことを書き留めるのは,商人が棚卸をするのと同じだ.それをしないと,自分の店に何が置かれていて何が足りないのか,さっぱりわからないじゃないか.」 

 第4章『仕事―向上意欲の前にカベはない!』より.

芸術家の偉大な作品を見ても,そこに忍耐強い努力と長年の修行の跡を感じ取れる人間は少ない.確かにそれらの作品は,いとも簡単にごく短い期間で作られたように見える.だがその陰には,想像を絶するほどの作者の苦しみが横たわっているのだ. 

ラックスマン少年は,芸術家に相応しい資質を備えていた―すなわち,勤勉と忍耐とを.彼はめげることなく読書を続け,絵や彫像の政策に励んだ.彼の初期の作品のいくつかは現在も保存されているが,それは作品が素晴らしいからではなく,一天才の当時の粘り強い努力の跡がそこにいかんなく表現されているためだ.彼がひとり立ちできるまでには長い時間がかかった.しかも初めは,松葉杖頼りのヨチヨチ歩きだった.だがしまいには,杖の助けを借りずに歩けるほど彼はたくましく成長するのである.

画家レーノルズ「諸君が天性の才能に恵まれているなら,勤勉がそれをさらに高めるだろう.もし恵まれていないとしても,勤勉がそれに取って変わるだろう.」 

  第5章『意志と活力―自分の使命に燃えて生きる!』より.

どんな分野であれ,成功に必要なのは秀でた才能ではなく決意だ.あくまで精一杯努力しようとする意志の力だ.この意味で,活力とは人間の性格の中心をなす力であり,つまるところ人間それ自身であるともいえよう. 

勤勉という習慣も,他の習慣と同じように時がたつにつれて楽に身に付いてくる.だから,平凡な能力しかなくとも一度に一つのことのみに集中してやり通せば,大きな成果が上がるはずだ. 

真に価値ある目標は,勇猛果敢に取り組まなければ成就できるものではない.人間の成長はひとえに,困難と闘おうとする意志の力,すなわち努力いかんにかかっている.一見不可能と思えることの多くが,努力によって可能となるのを見るにつけ,われわれは大きな驚きを禁じ得ない. 

  第6章『時間の知恵―「実務能力」のない者に成功者なし』より.

ベーコンはしばしば,ビジネスを道に例えてこう語った.「最短の近道はたいていの場合,一番悪い道だ.だから最善の道を通りたければ,多少たりとも回り道をしなくてはならない.」

詩人ムーアがジョン・ラッセルを仲介人にして,メルボーンに自分の息子への援助を願い出た時の話.「親愛なるジョンへ.ムーア氏からの手紙はお返ししよう.人助けするくらいの視力はあるのだから,私としても君の願いを叶えるにやぶさかではない.だが援助するというのなら,ムーア氏自身に対してのほうが筋が通っている,と私は思うのだ.彼の息子のような若者にわずかばかりの援助を与えるというのは,どう考えても正しいやり方ではない.むしろ,当の若者に誤った考えさえ抱かせてしまうだろう.実際よりも多くの者を持っていると思い込めば,若者は決まって努力をしなくなる. だから彼らには,こう助言しておけば十分だ.“自分の道は自分で切り拓け.飢えようと飢えまいと,全ては自分自身の努力にかかっている”―私の言うことを信じてくれたまえ……」

一般的にいって,あまりに平板で順調な人生は人間をダメにする.身辺に何一つ不自由なく寝食にも困らないような暮らしより,必要に迫られて一生懸命働き,質素な生活を送る方がむしろ好ましい.かなり苦しい境遇から人生が始まれば,それだけ労働意欲はかき立てられる.その意味で,貧困は人生における成功の必須条件の一つともいえる. 

いつも自分の不幸を嘆いている連中の多くは,自らの怠惰や不始末,無分別,そして努力不足のしっぺ返しを受けているに過ぎない.  

どんなビジネスにも,それを効率よく運営するのに欠かせない原則が六つある.それは,注意力,勤勉,正確さ,手際の良さ,時間厳守,そして迅速さである. 

聖職者のリチャード・セシルは「手際の良さとは,箱に物を詰める仕事に似ている.荷造り上手は,下手な人間の二倍近くも多くの荷物を入れられる」と述べた.セシルは,仕事をてきぱきこなすことにかけては非凡な才能を発揮した.「多くの仕事を処理する一番の近道は,一度に一つしか仕事をしないことだ」と彼は言う. 

ビジネスほど,人柄の善し悪しがきびしく問われる分野はない.そこでは,正直かどうか,自己犠牲の精神にあふれているかどうか,公正かつ誠実に行動できるかどうか,などが厳格なふるいにかけられる. 

  第7章『金の知恵―楽をするには汗をかけ!』より.

政治家ジョン・ブライトも,1847年にロッジデールの勤労者集会で同じような忠告を与えている.「いまの生活が快適ならそれを維持し,あまりよくなければ改善していくべきだが,それには確実な方法が一つだけある.勤勉,倹約,節制そして誠実という美徳を実践することだ.不自由に縛られた不満だらけの生活から抜け出すには,この四つの美徳を実行する以外に近道はない.しかも多くの人間が,実際にそうやって暮らしを向上させ成功を掴んでいるのだ.」 

 将来に目を向けて生きるには,失業,病気,死という不慮の際や句への備えを怠ってはならない.このうち最初の二つは避けられもするが,氏だけは人間の力ではどうにもならない.だが思慮深い人間なら,突然どんな災難が降りかかろうとも,苦しみをできるだけ緩和できるよう,また自分を頼って暮らす人にも影響が及ばないよう,予め備えを万全にして生活するだろう. 

 この点から見て一番大切なのは,正直な手段で金を得て,それを倹約しながら使うことである.正直に金を稼ぐとは,誘惑に負けず努力と勤勉で望みを果すことに他ならない.金を倹約して使うというのは,すぐれた人格者の基礎となる資質―すなわち分別や先見性や克己心を備えている証拠だ.

人生の若い時期に得た週間は,悪に対する真の防波堤となる.なぜなら,人間が品行方正になるのは習慣を通じてであり,モラルが損なわれないよう守ってくれるのもまた週間の力なのだ.良い習慣が日常生活のすみずみにまで行き渡れば,その人間のふるまいは一段と立派なものに変わっていくに違いない.

  第8章『自己修養―最高の知的素養は一日の仕事から生まれる!』より.

ウォルター・スコット「最良の教育とは,人が自分自身に与える教育である」 

イグナチウス・ロヨラの格言の一つに,「一度に一つの仕事しかしない人間のほうが,むしろ誰よりも多くの仕事をする」というのがある.あれこれの分野に手を広げ過ぎると,かえって集中力を欠き,進歩も遅れ,うだつの上がらない仕事をする癖が身についてしまう. 

サミュエル・ジョンソンは「自分の力に自信を持っていたからこそ成功できたのだ」と常々語っていた.自信を持ちすぎると謙虚さが失われるのではないか,と思われるかもしれないが,実際はそうではない.真の謙虚さとは自分の長所を正当に評価することであり,長所をすべて否定することとは違う. 

興味本位の知識修得法を身に付けると,若者はじきに勉強や努力からそっぽを向くようになる.ふざけ半分に知識を得ているうちに,今度は知識をふざけ半分に弄び始める. 知性は次第に雲散霧消し,時がたつにつれ精神も性格も骨抜きにされていく.

単なる知識の所有は,知恵や理解力の体得とはまったくの別物だ.知恵や理解力は,読書よりもはるかに高度な訓練を通じてのみ得られる.一方,読書から知識を吸収するのは,他人の思想を鵜呑みにするようなもので,自分の考えを積極的に発展させようとする姿勢とは大違いだ. 

もう一つ忘れてはならないのは,本からいくら貴重な経験を学んだとしても,しょせんは学問の域を出ないという点だ.それに反して,現実生活から得た経験は真の知恵となる.わずかな知恵でさえ,膨大な量の耳学問よりはるかに値打ちが高い. 

真の教育の目的とは,他人の思想や考えを鵜呑みにしたり頭に詰め込んだりすることではない.大切なのは知力を高め,有意義な人生を送れるよう勤めることだ.そこでは知識の量より知識を得る目的の方が遥かに重要な問題である.我々は知恵を発達させ,人格を高め,より豊がで幸福で価値ある人生を送るために学ぶべきだ.知識は,人生の高い目的をより有効に追及するための活力源でなくてはならない. 

「ある少年と他の少年との差は,才能よりむしろ活動力の優劣によって決まる」とアーノルドは指摘したが,これは大人にも当てはまる.粘り強さや活力は,最初は他人から与えられたとしても,次第に本人の習慣として身についていく.コツコツ努力する劣等生は,必ずやあきっぽい優等生を追い抜くだろう.遅くとも着実に歩むものが,競争では最後に勝つのだ. 

  この手の本はほとんど同じ内容が書かれている.「人を動かす」の方が,心動かされるメッセージが多かったので,これを読もうと思う人には「人を動かす」を勧めたい.