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備忘録

勉強や読書の記録

池谷裕二『記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方』,講談社,2001

 既に大学院は修了したのだが,大学付近まで行く予定があるので,短い間に読み切れそうなものを大学図書館で探していたところ,なかなかものを覚えられない私にピッタリの本があったので読んでみた.ちなみに著者は「歳のせいで記憶力が落ちて…」「物忘れがひどい」などと嘆く人に対して,以下の非常に手厳しいコメントをしている.

この嘆きはたいへんな間違いで,私から見れば,そういう人は単なる努力不足であるように思います.そしてまた,昔自分がものを覚えるために,どれほど努力したのかを忘れているのです.勉強がその生活の大半を占める学生時代でも,ひとつのものごとを習得するのに,かなりの時間と労力を必要としたはずです.こうして苦労した経験を忘れ,ただただ老化を嘆くのはとても愚かな行為です.

記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)
 

 記憶は短期記憶と長期記憶に分けられる.長期記憶はエピソード記憶意味記憶(知識),手続き記憶(身体で覚える記憶),プライミング記憶(先入観のようなもの,思い込み)に分けられる.本書によると,短期記憶とエピソード記憶は自身の意思で思い出すことができるが,意味記憶に関してはきっかけがないと思い出せないので,エピソード記憶の形にして記憶することが大事だと言う.

 とは言え,記憶が得意でない人も少なくないだろう.そういう人のために,本書では記憶の3箇条を示している.

  1. 何度も失敗を繰り返して覚えるべし
  2. きちんと手順を踏んで覚えるべし
  3. まずは大きく捉えるべし

この3箇条は,記憶を司る海馬(我々が認識した情報を側頭葉を通して歯状回、CA1~4野を経て再度側頭葉に出力する)について,執筆時点で明らかになっている,もしくは妥当性の高い説に基づいて提案されている.また,エビングハウス忘却曲線に基づいて『1週間後に1回目,その2週間後に2回目,最後の復習から1ヶ月後に復習』すると良いとも言っている.そして,記憶の際には『その事象の法則性も同時に理解する』(単なる意味記憶より長く覚えられる上に,意味記憶と比べると自身の意思でアクセスできるので)ことも勧めている.

 ところで,そもそも脳はどのようにして記憶するのか.脳には多くの神経細胞が含まれており,神経細胞が持つ軸索と樹状突起が組み合わさって神経回路を形成している.この回路中に含まれる神経細胞と神経繊維の組み合わせを用いて我々は記憶しているらしい.

 記憶しているか否かは,側頭葉の神経回路に対して検索を行い,ヒットすれば記憶できているということになる.とすると,いかにしてこのネットワークを構築するかが重要になる.考えられるのは,(1) 神経細胞の数を増やす,(2) 神経繊維を増やし新たなネットワークを築く,の2通り.前者については,海馬を構成する歯状回,CA1~4野のうち,歯状回の神経細胞は,神経細胞が死滅するスピードを上回るスピードで増やせることが分かっている.後者については,神経細胞の活動を整理する.軸索には活動電位が伝えられるが,神経繊維の基本成分が脂肪,タンパク質,炭水化物であるために導体としては不適切である.そこで,神経繊維には周辺のナトリウムイオンを神経繊維に通すことで活動電位を流すチャネルと呼ばれる穴が無数に存在している.軸索と樹状突起とその間のシナプス間隙と呼ばれる僅かな隙間をまとめてシナプスと呼んでいる.連続していないため,軸索の終端に達したら先端についているシナプス小胞に含まれる神経伝達物質グルタミン酸アセチルコリンなど)を放出し,それを樹状突起の先端で受け止め,その刺激に応じた活動電位を神経細胞に伝える.もしここで十分な電位が神経細胞に伝わったら神経が興奮する.頻繁に神経細胞を興奮させると細胞は重要な回路だと認識し,神経回路は維持される.逆に興奮しない状態が続けば,不要な回路と見なし削除する.

 ここで問題は,いかにして神経細胞を興奮させるだ電位を樹状突起に生じさせるかに変わる.樹状突起には神経伝達物質を受け取るためにAMPA受容体とNMDA受容体の2つの受容体が存在しているが、後者は鈍いため,通常使われるのは前者だけである.後者は多くのグルタミン酸で刺激すると開くが,この際NMDA受容体には,ナトリウムイオンだけでなくカルシウムイオンが流れ込む.これにより,樹状突起内に潜むAMPA受容体が飛び出し,多くのナトリウムイオンを受け取ることが可能になり,結果としてより強い刺激を細胞に与えることになる(LTPと呼ばれる).

 久々にブルーバックス読んだけど,さすがという感想.結論としては,記憶しやすいように問題を分解して一番簡単なところから何度も何度も繰り返し刺激することで該当する神経細胞に刺激を与える.その際に興味を持って取り組むことで効率的に覚えられるよ,という話でした.