備忘録

勉強や読書の記録

東井義雄『自分を育てるのは自分 - 10代の君たちへ』,致知出版社,2011

 今回は東井義雄の『自分を育てるのは自分』を紹介する.本書は著者が講演会で話した内容をまとめたものである.タイトルにもある通り,自分を育てるのは自分だけだということを説いている.

自分を育てるのは自分

自分を育てるのは自分

 

 本書で語られる話には,自分に当てはまる部分が多々あったのでいくつか取り上げたい.本書には次の記述がある.

悲しみを通さないと 見せていただけない 世界がある

これは本当にその通りで,恵まれた環境にいると,あらゆる当たり前のことに有難味を感じるのが難しい.これまで起きた様々な不幸のおかげで気づきを得ることができたので,そういう意味で自分は結構恵まれているんじゃないかなと思っているのだが,著者も同じ考えを持っていた.

結局,道にいい道,悪い道というものがあるのではない.その道を,どんな風に生きるかという,その生き様によって,良く見える道も悪くなったり,悪く見える道も良くなったりするんですね.

皆さんが五千通りの可能性の中から,どの可能性を取り出してくれるかということのためには,皆さんがあんまり恵まれすぎていて,自分でよほどしっかりしていないと,自分をダメにしてしまうということです.私は差し押さえを受けてやる気になった.人間はあんまり恵まれすぎた条件の中では心がたるんでしまう.やる気がダメになってしまう.そういう意味からも,皆さんが五千通りの可能性の中から「生まれてよかったな.やるぞ」という可能性を育てるためにな,よほど自分で自分を大切にする覚悟を持っていなくてはダメということです.

差し押さえを通して人生の厳しさに目覚めた著者は次のように言う.

光りを放つ仕組みがあっても,スイッチを入れないと光りを放ちません.皆さん,みんな一人ひとり素晴らしい光りを放つ仕組をいただいているんです.(中略)でも,この人生の厳しさが本当に目覚めてこんと,スイッチは入らんのです.光りを出すことができんのです.

自分も光を放つ日に向けて努力せねば.

今が本番,今日が本番.明日がある,明後日があると思っているうちは何もありはしない.肝心の今さえ無いんだから.

本物は続く.続けると本物になる.

自分が変わるために読書を始めてかれこれ一年半経ったが,何とか続いている.文章力向上のために始めたブログも,忙しくてもなるべく更新を心掛けないと.

 親と意見が合わず口論することが多々ある身には耳が痛いことも書いてある.

進路を考える上に,世界四十億のどんな偉い人より真剣に考えてくださっているお父さん,お母さんの助言が,自分に気に入らないからといって聞けないようでは,ロクな人生過ごせんと覚悟しなさい. 

必ずしも親が正しいとは限らないが,自分も正しいとは限らないという事実を忘れないようにせねば.

 本書にはきっとあなたの心にも響く言葉がある.変わりたいと願うなら,手にとっては如何だろうか.心のスイッチを押すことができるかもしれない.

人間の目は不思議な目.見ようという心がなかったら,見ていても見えない.

人間の耳は不思議な耳.聞こうという心がなかったら,聞いていても聞こえない.

頭もそうだ.はじめから良い頭,悪い頭の区別があるのではないようだ.「よし,やるぞ!」と心のスイッチが入ると,頭も素晴らしい働きをし始める.

心のスイッチが人間をつまらなくも素晴らしくもしていく.

電動のスイッチが,家の中を明るくもし,暗くもするように.

池上彰『そうだったのか!現代史』,集英社文庫,2007

 本書はかの池上彰氏が,現代社会を理解する上で適切な入門書籍がないことを理由に書き上げた現代史入門である.氏の言う通り,非常に平易な言葉で歴史が解説されている.今知ったのだが,そうだったのか!シリーズは他にも存在するようだ.読まねば.

そうだったのか!現代史 (集英社文庫)

そうだったのか!現代史 (集英社文庫)

 

本書では章ごとに国家,紛争,もしくは経済に関する歴史がまとめられており,歴史の勉強法という点でも参考になる部分が多々ある.高校で歴史科目を受けなかった/サボった人にぜひオススメしたい.

池井戸潤『下町ロケット』,小学館,2013

 今回は池井戸潤の『下町ロケット』『下町ロケット2 - ガウディ計画』を紹介する.池井戸潤と言えば「やられたらやり返す―倍返しだ!」でお馴染みの半沢直樹シリーズ半沢直樹シリーズは著者の銀行勤務経験を活かした銀行員・半沢直樹が主人公の小説で,度重なる理不尽とアッと驚く逆転劇が見ものだ.半沢直樹シリーズのうち『オレたち花のバブル入校組』『オレたちバブル入校組』『ロスジェネの逆襲』を読み,過不足ない池井戸潤の描写を気に入って下町ロケットを手に取った.

下町ロケット (小学館文庫)

下町ロケット (小学館文庫)

 

  

下町ロケット2 ガウディ計画

下町ロケット2 ガウディ計画

 

 本シリーズはロケット打ち上げに失敗した責任を取って研究所を辞め,その後父の町工場を受け継いで社長となった佃航平が主人公である.本シリーズても度重なる理不尽と逆転劇は健在で,追い込まれる佃製作所社員と共に奮闘しているかのようにページを捲り,最後のハッピーエンドには晴れやかな気分になれる.「努力・友情・勝利」が好きならば,下町ロケットシリーズ,半沢直樹シリーズともにオススメだ.

湊かなえ『夜行観覧車』,双葉文庫,2013

 諸々の事情により更新が2ヶ月以上も空いてしまった.下半期は自身の英語力向上のために英語でも書評を書く予定なのだが,先が思いやられる…

 今回は湊かなえの『夜行観覧車』を紹介する.湊かなえの作品は『告白』『贖罪』を読んだのだが,今回も章ごとに特定の個人もしくは集団にフォーカスした独白形式で書かれている.実は私はこの形式が気に入っていて,というのは,湊かなえの描き出す人間の汚い部分がこの形式によって十二分に言語化されていると考えるからだ.

夜行観覧車 (双葉文庫)

夜行観覧車 (双葉文庫)

 

 本書は高級住宅街で起きた殺人事件を中心に,その関係者の心情を描きながら進んでいく.背伸びして高級住宅街に家を建てた一家と家庭問題,他所の家庭問題に首を突っ込むお婆さん,ある日突然殺人鬼の家族となってしまった子供たち.他の小説では味わえない,人間の心の闇を存分に味わえる小説となっている.それでいてページを捲る速度を緩ませない湊かなえの力量は流石である.たまにはハッピーエンドで終わらないイヤミスも読んでみては如何だろうか.観覧車が一回りする間に,あなたの何かも変わっているかもしれない.

瀧本哲史『武器としての決断思考』,星海社新書,2011

 忙しさを言い訳に書評を書くのをサボってしまった.一度やめてしまった習慣を再度始めるためにはかなりの精神的エネルギーを要するという学びを得た.他にも英語でブログを書こうと思うものの,時間がなく実現できていない.仕事の生産性を高めねば…

 今回は瀧本哲史氏の「武器としての決断思考」を紹介する.本書は瀧本氏が得意とするディベート思考を噛み砕いて説明している.ディベートの目的は相手を論破することではなく,現状での最善解を導き出すことにあるという.近年ロジカルシンキングに関する本が数多く出版されているが,本書よりもわかりやすい本は存在しないと思う.

武器としての決断思考 (星海社新書)

武器としての決断思考 (星海社新書)

 

 本書ではメリット・デメリットにはそれぞれ満たすべき三要件は,メリットについては,

  1. 内因性(既に存在している問題であること)
  2. 重要性(その問題が重要であること)
  3. 解決性(提案によってその問題が本当に解決されること)

デメリットについては,

  1. 発生過程(何かの行動を取ることで,検討中の問題が生じる過程)
  2. 深刻性(その問題が深刻であること)
  3. 固有性(現状その問題は発生しておらず,特定の行動によって新たに生じること)

とされている.

 反論はこれらの三要件に対して切り込んでいくことで行う.例えば,メリットに対しては,「そんな問題はそもそもないのでは?」(内因性),「問題だとしても,大した問題ではないのでは?」(重要性),「重要な問題だとしても,その方法では解決しないのでは?」(解決性)といった具合に切り込んでいく.反論は,それが正しいかどうかをチェックすることであり,その際に重要なのは「できる限り多くの視点から自分の意見や相手の主張をチェックする」ということ,つまり,MECE(モレなく,ダブリなく)であることが重要である.厳密にMECEであるのは非常に難しいと別の本で読んだのだが,可能な限りMECEに近づける努力をすべきと書かれていた.

 ディベートにおける「正しい主張」も満たすべき要件があり,それは,

  1. 主張に根拠がある
  2. 根拠が反論に曝されている
  3. 根拠が反論に耐えた

の3点である.主張と根拠の間には「推論」が存在する.本書では次のような例を挙げている.

・主張:Bさんはいい人だ

・根拠:お年寄りに道案内していたから

 

何の変哲もないシンプルな構造ですが,実は,この主張と根拠の間には,「人助けをする人はいい人だ」という考え方が見え隠れしています.(中略)この,主張と根拠の間にある,よく考えないと見えてこない前提の考え方(論理,または思い込み)のことを「推論」と言います.

 

・推論:人助けをする人はいい人だ

 

主張を「最終的に訴えたい結論」,根拠を「主張を支持する理由」とするなら,推論とは主張と根拠との繋がりを指し,「理由である根拠がどれくらい主張を支えているかを説明する論理」と定義づけることができるでしょう. 

つまり,相手の主張に対して適切に反論するためには,三要件の各要件に加えてその根拠と推論の妥当性を疑えばよい.

 推論の部分を攻めるために便利なツールが「演繹」「帰納」「因果関係」の3つだ.演繹は一般論から個別的結論を導き出す推論だが,前提が妥当でない場合は間違った結論や詭弁を導きやすい.帰納は演繹の逆で,個別の事例を集めて一般論を導き出すことだが,存在する全ての事例を検討することは不可能なので,絶対的に結論が正しいということはできない.因果関係は,

   ・原因Aがあるとき,結果Bが起こる

   ・このとき,AとBには因果関係がある

と定義づけられている.この関係で注意すべきは「因果関係が逆」「因果関係と相関関係の混同」「特定の原因にのみ着目する」の3点である.因果関係と相関関係の違いは,因果は,結ばれた関係同士が直接的に影響しており,相関は,ある要素を介して影響している.例えば,「コウノトリ出生率が少ないところでは,赤ちゃんの出生率も高いという相関関係がある」という主張は,コウノトリ出生率と赤ちゃんの出生率の因果関係を示さない.実は「都市化」という共通の原因が存在している.つまり,都市化が進むと,心理伐採などによりコウノトリの数が減少する.同じく都市化が進むと,両親の共働きや核家族の崩壊により子供の数も減少している.これが因果と相関の近藤だ.

 

 今回得たディベート思考という武器を用いて,自分の人生は自分で決めていかなければならない.論理的思考が苦手な方にはオススメできる一冊である.

佐藤優『知性とは何か』,祥伝社,2015

 手元にある佐藤優氏の著書をいくつか読んでいる.そのうちの一つが『知性とは何か』である.本書では反知性主義に焦点を当てている.

知性とは何か(祥伝社新書)

知性とは何か(祥伝社新書)

 

 

 パワー・エリートに広まっている反知性主義は「客観性や実証性を軽視もしくは無視し,自分が欲するように世界を理解する態度」と本書では定義されている.では反知性主義に陥らないためにはどうすればいいのだろうか.そのための処方箋を3つ挙げている.

  1. 自らが置かれた社会的状況を,できる限り客観的にとらえ,それを言語化すること.自分の考えをノート,PC,スマートフォンなどに記録する習慣を身につける.
  2. 他人の気持ちになって考える訓練をする.
  3. LINE等のSNSを用いた「話し言葉」的思考ではなく,頭の中で自分の考えた事柄を吟味してから発信する「書き言葉」的思考を身につけること.重要な事柄については,SNSを用いずに,PCで文を綴り,プリントアウトして,推敲した後で送付する習慣を身につけると「書き言葉」的思考力が向上する.

 反知性主義に対抗するための知性として,言葉と存在論/現象論を挙げている.言葉については,先ほど挙げた「書き言葉」に加え,外国語の習得を勧めている.これには私も同意する.なぜなら,日本のメディアは流通させる国外の情報を恣意的に選んでいるだけでなく,誤訳も少なくない.もし仮に原典に直接アクセスできるだけの語学力があるのならば,選択の基準に騙されることがなくなる.存在論/現象論に関しては,事実(現象)だけでなく,その裏にある何か(存在)を見出すことが必要だという.それに有効なのが以前紹介した超したたか勉強術で挙げられているアナロジーや敷衍等だ.読んでこうした構造を発見することも大切だが,やはり自分で使わなければ自分の肉として意識できない.

 筆者は本書を次の言葉で締めている.

教科書に書いている内容を覚え,それを一時間半から二時間の限られた時間で再現することができる偏差値秀才は,学力は高いかもしれない.しかし,それが人生や仕事に役立つ知性と直結するわけではない.知性は,記憶力や再現力だけでなく,人間の生全体を貫く営みだからである.

知識を積み上げることも必要だが,知性に繋げなければ意味がないという主張には同意する.そのためには常日頃良質な文書に触れ,自身の語彙と知識を更新続けなければならない.

佐藤優『超したたか勉強術』,朝日新書,2015

佐藤優氏の著書を立て続けに読んだ.今回は『超したたか勉強術』を紹介する.本書の目的は,現在を生き残るための思考の鋳型を提示することだ.現在の問題と歴史との類比を用いる等,方法の提示と同時に具体例を示しており,非常にわかりやすい.

超したたか勉強術 (朝日新書)

超したたか勉強術 (朝日新書)

 

 

しかし,実際に自分の思考を深くするためには対象に対する切り口を自分なりに検討する必要があり,結局それは自身の教養に依存するので,本書で述べられる方法を実現するにもまずは知識を身につける必要がある.この点には著者も同意しているが,一方で,使えないほどの量の知識を収集するのはインテリジェンスとしては無意味だとも警告している.これの対応策としては,dropbox等にプッシュする前に,一度自分でその情報を咀嚼することが有効だという.また,自身の脳内にストックできる情報量を増やすために,読書に加え,丸暗記も勧めている.私は丸暗記自体に意味を感じないためこれまで何かを暗記することはなかったのだが,著者は記憶容量アップのための暗記なので,いわゆる試験勉強等とはまるで性格が異なるという.恥ずかしながら私は記憶力が悪く,それが一つのコンプレックスであったりもするので,座右の書でも丸暗記してみようと思う.

 

本書では至るところで思考のポイントを提示している.備忘録として,簡単に書き留めておく.

1.  アナロジーで考える

 似通った構造を持つ複数の事柄を比較して考えることで,新しい知見を得たり,仮説を立てたりすることができる.

 

2.  敷衍して論を発展させる

 同じ事柄を別の言葉や例で表現すること.一つのテーマに対して別の概念を用いて思考を展開することで,キー概念へと思考を広げることができる.

 

3.  正反対の人物をイメージする

 一つの物事を自分の考えや立場と対極にある人になったつもりで捉えてみる.その人ならばどう考えるかを創造し,次の段階で,想像したことを論理的に組み立てる.

 

4.  共通点と相違点を探す

 共通点,相違点と順序立てて考えることで,思考の方向性が見えてくる.

 

5.  歴史的事実を使って規定する

 「動かし難い歴史的事実」を使って規定し,その規定に照らし合わせることで,重要な論点が見えてくる.

 

6.  情念面からもアプローチする

 ある人物が頑なに主張することに論理整合性を見出せない場合は,その主張が当該人物の内面の問題に起因していることがしばしばある.その場合は生育史なども含めた情念面からのアプローチをとってみると,意外な発見がある. 

 

7.  アイデンティティ―に注目する

 複雑な問題は,類比可能である程度評価が固まっている歴史的事実や,事態が落ち着いている近過去と比較すると良い.複雑な問題をいくつかの要素に分け,自分で構成要素を組み直す作業を繰り返すと,考えが整理されて問題が見えてくる.社会的問題に対しては,著者はアイデンティティーに注目するのが有効だと考える.

 

8.  第三者の立場から考える

 当事者同士よりも離れた距離感で物事を考えられる.つまり,適切な切り口を用意すれば,余計なノイズに影響されることなく思考できる.

 

9.  別の概念に当てはめる

 長らく考えてきた問題を別の概念に当てはめて捉え直すと,その問題が持つ別の側面に気付くことができる.

 

10. 更なる謎に迫る

 

11. 他人事と捉えない

 自分に直接関係ないようなことでも,類比を用いて自分と関連付けてみる.

 

12. 他の選択肢の可能性を探る

 多くの人が最良だと考えている価値をあえて疑ってみる.

 

13. 価値を相対化する

 ここからは,最良だと考えている価値も,任意に分節化できることがわかる.個人の思想信条,信仰といった内面的な価値を別にすれば,絶対的な価値は存在しないという前提で,物事を考えるべき.

 

14. 立ち位置に目を配る

 

15. 感情的な要素を排除する

 物事を理性で認識する際に守るべきルールを決める.本書で用いている教科書では「立場の異なる人とも議論可能な論理に基づいて物事を考える」,つまり,感情的な要素を排除することをルールとしている.

 

16. ルールの数は絞る

 考察のルールは少ないほうがいい.ルールの数を多くすると,物事を判定する物差しが多くなり,複雑な物事を整理する際に手間がかかる.あるいはいくつかの物差しを組み合わせるなど,整理の段階で作業が複雑化する.人間の集中力には限度がある.ルールの数を絞り,整理の手間を省力化して,抽出した要素をじっくり考えることに集中したほうが,得られる成果は大きい.

 

17. 効果的に敷衍を行う

 論理的で合理的であっても,実証性と客観性のないものに説得力はない.他社に理解しづらいことを説明するのに敷衍は効果的な手段だ.

 

18. 双方の立場から立論する

 

19. 裏返して考える習慣をつける

 物事の本質はしばしば裏に隠れているものだから,裏返して考える習慣をつける.