備忘録

勉強や読書の記録

重森千靑『図解雑学 日本庭園』,ナツメ社,2009

 重森千靑の『日本庭園(図解雑学)』を読み終えた.

日本庭園 (図解雑学)

日本庭園 (図解雑学)

 

 日本庭園に良く行くのだが,その構成や意図等に関する知識は全くなかったため,読んでみた.イントロダクションでは初学者向けと謳っており,その言葉に嘘偽りのない内容であった.

 残っている記録に従えば,日本で作られた最古の庭園は,612年に百済からの渡来人である路子工(みちこのたくみ)によるものである.渡来文化により大陸の文化が日本に流入したが,本書によれば,日本庭園で生かされているのは蓬莱神仙思想のみだそうだ.蓬莱神仙とは,中国の道教という宗教における不老不死の象徴である.大海原に突如現れる蓬莱島には不老不死の仙人が住む蓬莱山があり,そこには永遠の命を約束する秘薬が存在するという思想である.この蓬莱島/蓬莱山を表現した庭園も存在する.また,道教と同様に,仏教の須弥山や九山八海を表現した庭園もある.もちろんこれらの実在しない理想郷だけではなく,日本や海外の景勝を再現したものも多い.

 ではどのように景色を表現するのだろうか.池を有する庭園は多い.実は,池は海を表している.さらに,大小の石を利用することで,石の持つ力強い風情と立体的な構成で,海の荒磯を表現する.その他にも砂や出島により,海を表現しようと試みられている.本書では自然を感じるものの一つとして滝が挙げられている.滝は自然を表現するだけでなく,音を意識することで人の心を和ませたり,修行に相応しい場を演出したりするために,様々な水の落とし方が考案された.その他にも植栽構成や苔,生垣などにも言及している.

 

 本書で学んでから庭園に行くと,また一味違った趣を味わえるのだろう.本書の最終章では著者が一般公開されている庭園を紹介している.東京以外に行く予定はないので,東京都内の庭園のみの記述を引用して,結びとする.

清澄庭園

 明治期に岩崎弥太郎の所有した広大な池泉庭園.池泉内には四島の島,三箇所の沢渡,豪快な枯滝,洞窟石組など,見所が大変多い.広大な富士山を模した築山も,本庭に彩りを添えている.どの場所からの眺めも美しい,飽きのこない庭園である. 

小石川後楽園

 水戸徳川家の江戸上屋敷だった庭園.この庭園の特徴は,庭園内の至るところに全国各地の風光明媚な景勝地を縮景したり,中国趣味(円月橋や西湖堤)もとり入れ,庭園を巡りながらあらゆる景色を堪能できる.