デール・カーネギー『人を動かす』,創元社,1999
有名な自己啓発書を読んだ.1年半ほど前にカーネギー氏の『話し方入門』を読んだのだが,本書も『話し方入門』と同様に,非常に平易な言葉で書かれており,とても読みやすい.
- 作者: デールカーネギー,Dale Carnegie,山口博
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 1999/10/31
- メディア: 単行本
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まず,人を動かすための原則を示す.
Ⅰ 人を動かす三原則
1. 批判も非難もしない.苦情も言わない.
2. 率直で,誠実な評価を与える.
3. 強い欲求を起こさせる.
Ⅱ 人に好かれる六原則
1. 誠実な関心を寄せる.
2. 笑顔で接する.
3. 名前は,当人にとって,最も快い,最も大切な響きを持つ言葉であることを忘れない.
4. 聞き手にまわる.
5. 相手の関心を見抜いて話題にする.
6. 重要感を与える―誠意を込めて.
Ⅲ 人を説得する十二原則
1. 議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける.
2. 相手の意見に敬意を払い,誤りを指摘しない.
3. 自分の誤りを直ちに快く認める.
4. おだやかに話す.
5. 相手が即座に“イエス”と答える問題を選ぶ.
6. 相手に喋らせる.
7. 相手に思いつかせる.
8. 人の身になる.
9. 相手の考えや希望に対して同情を持つ.
10. 人の美しい心情に呼びかける.
11. 演出を考える.
12. 対抗意識を刺激する.
Ⅳ 人を変える九原則
1. まずほめる.
2. 遠回しに注意を与える.
3. まず自分の誤りを話したあと相手に注意する.
4. 命令をせず,意見を求める.
5. 顔をたてる.
6. わずかなことでも惜しみなく心から褒める.
7. 期待をかける.
8. 激励して,能力に自信を持たせる.
9. 喜んで協力させる.
Ⅴ 幸福な家庭をつくる七原則
1. 口やかましく言わない.
2. 長所を認める.
3. 粗探しをしない.
4. 褒める.
5. ささやかな心づくしを怠らない.
6. 礼儀を守る.
7. 正しい性の知識を持つ.
人を動かす三原則①では次の記述がある.耳が痛い.
他人の欠点を直してやろうという気持ちは,確かに立派であり賞讃に価する.だが,どうしてまず自分の欠点を改めようとしないのだろう?他人を矯正するよりも,自分を直す方がよほど得であり,危険も少ない.利己主義的な立場で考えれば,確かにそうなるはずだ.
死ぬまで他人に恨まれたい方は,人を辛辣に批評してさえおればよろしい.その批評が当たっていればいるほど,効果はてきめんだ.
およそ人を扱う場合には,相手を論理の動物だと思ってはならない.相手は感情の動物であり,しかも偏見に満ち,自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない.
人を批評したり,非難したり,小言を言ったりすることは,どんなばか者でもできる.そして,ばか者に限って,それをしたがるものだ.
理解と,寛容は,すぐれた品性と克己心を備えた人にして初めて持ち得る徳である.
人を非難する代わりに,相手を理解するように努めようではないか.どういうわけで,相手がそんなことをしでかすに至ったか,よく考えてみようではないか.そのほうがよほど得策でもあり,また,面白くもある.そうすれば,同情,寛容,好意も,おのずと生まれてくる.
若い時は人づきあいが非常に下手だったそうが,後に非常に外交的な技術を身につけ,人を扱うのがうまくなり,駐仏米大使に任命されたベンジャミン・フランクリンは,彼は「人の悪口は決して言わず,長所を褒めることだ」と言っているそうだ.英国の思想家カーライルも「偉人は,小人物の扱い方によって,その偉大さを示す」と言っている.
人を動かす原則②は,相手の長所や良い行いをきちんと褒めることである.承認欲求を満たされて不快に感じる人間は存在しない.褒めるのはついつい忘れてしまうのだが,ひと月ほど前に,説教した後輩が無事論文を提出できたということで「優秀」などと評したところ,説教した直後とは全く別の反応を示したので,適宜労いの言葉や褒め言葉を与えておくことで効率よく意思疎通を図れそうだなあ,などと思った.
そして,人を動かす原則③は,話し方入門にも書いてある.何かをやってもらいたい場合には,彼らがやりたくなるように,それをやることによるメリットや,やらないことによるデメリットを示すことで,強い欲求を芽生えさせる.これは以前,高校の進路講演会で登壇した際にも意識したことで,実際に効果を感じることができた.人に何かをやらせたい場合には,圧力で強制させるのではなく,自発的にやりたくなるように誘導するのが重要.
次に,人に好かれる六原則④について.聞き手にまわるというのは相手に話させるということである.好きなものに関して嫌々話す人はほぼいないので,相手の好みを把握し,それについて話させることで,相手に満足感や自分への好印象を与えることができる.この方法の利点はそれだけではない.最近話題の借金玉氏のブログには,相手に喋らせることで自分の情報を与えずに一方的に相手の情報を得ることができるとある.さらに,相手について十分な情報があれば,相手の示した情報から話したくない内容も推測できる.これからは聞き手にまわろう(元々あまり喋るタイプではないが).
人を説得する十二原則に移る.まず①について.なぜ議論をしてはならないのか.ベンジャミン・フランクリンは「議論したり反駁したりしているうちには,相手に勝つようなこともあるだろう.しかし,それはむなしい勝利だ―相手の行為は絶対にかち得られないのだから」と言っている.
②について.冒頭からぐうの音も出ない正論で殴られる.
自分の考えることが55%まで正しい人は,ウォール街に出かけて,一日に100万$儲けることができる.55%に正しい自信すらない人間に,他人の間違いを指摘する資格が,はたしてあるだろうか.
目つき,口ぶり,身振りなどでも,相手の間違いを指摘することができるが,これは,あからさまに相手を罵倒するのと何ら変わりない.そもそも,相手の間違いを,何のために指摘するのだ―相手の同意を得るために?とんでもない!相手は,自分の知能,判断,誇り,自尊心に平手打ちをくらわされているのだ.当然,打ち返してくる.考えを変えようなどと思うわけがない.どれだけプラトンやカントの論理を説いて聞かせても相手の意見は変わらない―傷つけられたのは,論理ではなく,感情なのだから.
他人の考えを変えさせることは,最も恵まれた条件のもとでさえ,大変な仕事だ.何を好んで条件を悪化させるのだ.自ら手足を縛るようなものではないか.
我々は,自分の非を自分で認めることはよくある.また,それを他人から指摘された場合,相手の出方が優しくて巧妙だと,あっさり兜をぬいで,むしろ自分の率直さや腹の太さに誇りを感じることさえある.しかし,相手がそれをむりやりに押し付けてくると,そうはいかない.
ガリレオも「教えないふりをして相手を教え,相手が知らないことは,忘れているのだといってやる」と言っている.また,先ほど挙げたベンジャミン・フランクリンも若い頃は議論好きだったが,友人から次のように指摘され,己の行いを改めている.
ベン,君はだめだよ.意見の違う相手に対しては,まるで平手打ちをくらわせるような議論をする.それがいやさに,君の意見を聞くものが誰もいなくなったではないか.君が傍にいない方が,君の友人たちにとってはよほど楽しいのだ.君は自分がいちばん物知りだと思っている.だから,誰も君にはものがいえなくなる.事実,君と話せば不愉快になるばかりだから,今後は相手にすまいとみんながそう思っているんだよ.だから,君の知識は,いつまでたっても,今以上に増える見込みはない―今の取るに足りない知識以上にはね.
人を説得する十二原則③は誤りを認めること.ここでは指揮官の作戦ミスにより戦争に敗北した事例が挙げられているが,その指揮官は兵士たちに向かって「これはすべてわたしが悪かったからだ.責任は私一人にある」と詫びたそうだ.実際に言うのは勇気がいるが,こう言い切れる上司になりたいものだ.
名著と言われるだけあって,心を動かされる言葉が無数にある.本書をもっと早く読んでいれば,後輩指導の際に大噴火することもなかったのかもしれない.そもそも目的の達成が一番重要なのだから,怒るなんて選択肢は有り得ない.もっと効率的なコントロールを意識する必要性を感じた.