備忘録

勉強や読書の記録

安宅和人『イシューからはじめよ-知的生産の「シンプルな本質」』,英治出版,2010

 今回は安宅氏の『イシューからはじめよ』を紹介する.この手の本は,大抵ツールの紹介に終始するものばかりという印象.半年ほど前に図書館の新着図書コーナーにあった本もそうだった.

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

 

しかし本書は「アウトプットを生み出す」という視点で記述されている.

 本書は大きなバリューを生み出すことに重きを置いている.序章では,大きなバリューを生み出す可能性が低い「犬の道」に触れている.氏は,一心不乱に目の前の問題に立ち向かう「犬の道」を邁進するのではなく,大きなイシューを選別し,可能な限りそのイシューに対する解の質を高めることが重要だという.

 では,その大きなイシューはどのように見極めれば良いのだろうか.氏は判断基準として以下を挙げている.

  • 実際にインパクトがあるか
  • 説得力ある形で検証できるか
  • 想定する受け手にそれを伝えられるか

さらに,イシューを見極める上で「スタンスをとる」ことが重要だという.多くの場合イシューは曖昧だが,スタンスをとることで,(1) 答えを出し得るレベルまでイシューを明確にできる,(2) 必要な情報・分析すべることがわかる,(3) 分析結果の解釈が明確になる,そうだ.

 さらに,頭の中で磨き上げられたイシューの言語化も勧めている.イシューを言語化する上でのコツは「Why?」よりも「Where?」「What?」「How?」のいずれかで表現することだ.

 氏はよいイシューは以下の3条件を満たすという.

  1. 本質的な選択肢である.
  2. 深い仮説がある.
  3. 答えを出し得る.

2. について,深い仮説を構築するためには,(1) 常識を否定する,(2) 構造で説明する,のが有効だという.そのための構造として,(1) 共通性,(2) 関係性,(3) グルーピング,(4) ルール,を挙げている.

 よいイシューを考えるためには,(1) 一次情報のサーベイ,(2) 一次情報に基づいた基本的な情報のスキャン,(3) 集め過ぎない・知り過ぎない,ことが重要だという.特にこの集め過ぎと知り過ぎは,大学院での就職活動でやってしまった.ある程度集めてからスキャンし,それに基づいてもう一度集めてスキャンする方が効率が良かった.

 どうしてもイシューが見つからない時は,(1) 変数を削る,(2) 視覚化する,(3) 最終形から辿る,(4) 「So What?」を繰り返す,(5) 極端な事例を考える,ことが有効らしい.

 そうして見つかった大きなイシューは,MECEを意識しながらサブイシューに分解する.その際にも「Where?」「What?」「How?」が役立つが,型が見つからない場合は逆算が有効だそうだ.サブイシューに分解する利点は,(1) 課題の全体像が見えやすくなる,(2) サブイシューのうち,取り組む優先順位の高いものが見えやすくなる,部分にある.

 イシューとそれに対する解を有効に伝えるためにもストーリーラインは重要である.ストーリーラインとして,(1) Why?の並び立て,(2) 空・雨・傘,を紹介してる.(1) はそのまんま,(2) は論文形式だと理解してる.

 基本的にストーリーはピラミッドストラクチャで構成される.大きなイシューが頂点にあり,その下にサブイシュー,そして,サブイシューを裏付ける根拠の提示.

 根拠として分析結果を示すことが多々ある.分析は比較することに意味がある.定性分析は「意味合い出しに向けた情報の整理」と「タイプ分け」が基本.定量分析の型は,(1) 比較,(2) 構成,(3) 変化,の3種類がある.

 分析経験が浅い身としては,以下の文が印象に残っている.

基本的に,分析は「原因側」と「結果側」の掛け算で表現される.比較する条件が原因側で,それを評価する値が結果側となる.軸を考えるというのは,原因側で何を比べるのか,結果側で何を比べるのか,ということを意味している. 

分析軸の選び方として以下の文も印象に残っている.

似ているものを束ねながら,軸を整理していく.場合によっては,2つの条件が重なり合ったものも出てくる.大きくはA/Bという2つの条件しかなくても,

  • Aでしかないケース
  • AでありBであるケース
  • Bでしかないケース
  • AでもBでもないケース
という4つの場合があり得る.

 そうして分析が設計されたら,実際の分析に進む.その際にトラブルも起るだろう.本書ではそうしたトラブルとして,(1) ほしい数字や証明が出ない,(2) 自分の知識や技では埒が明かない,を想定している.前者に対してはフェルミ推定,足で稼ぐ,複数のアプローチからの推定,を勧めている.

 最初に述べたように,多くのロジカルシンキング本などとは異なる内容である.氏がPh.Dを取得した脳神経系の知識と絡めたコラムも大変面白い.もしロジカルシンキング本を読もうと考えている人がいれば,本書をオススメする.